あぶらに魅せられた男達。あぶらを吸い取る紙達。


今日は「あぶら」について語りたいと思う。あぶらってのは顔から吹き出てくるあれのことだ。決して料理に使う油ではない。
かといって脂って書くとあまりにも汚いので「あぶら」って書く。ひらがなだとカワイイ感じだ。
さてオレとあぶらの関係はもう丸四年になる。高校入学と同時くらいに顔がテカリ始めたのだ。触ってみるとツルッと滑る。不快・・でもない。
そして初めて「あぶら取り紙」を手にした。買うとき、なぜか誇らしかった。大人の階段上る〜気分だったんだろう。
当時オレと同じクラスに、内野というヤツがいた。ヤツとオレは笑いの点で非常に気が合い、かなり仲が良かった。そしてある点でオレはヤツに尊敬の念を抱いた。
それが「あぶら」だった。とにかく常にテカテカ。あぶら取り紙は一回に最低二枚使わなければ満足出来ないという、すさまじいレベルのあぶらの持ち主だったのだ。
その頃まだオレのあぶらレベルはドラクエの戦士で言えば「いっぱし」程度。彼の足元にも及ばなかった。
はっきり言って悔しかった。別に他の事に関しては仲が良かったのだが、負けず嫌いのオレにとって、彼が当時「石油王」の名を欲しいままにしていたのが気に食わなかったのだ。
それからオレはヤツに勝つために、血のにじむような努力をした。・・・わけないじゃん。てゆーか高二くらいになるとオレもいわゆるあぶら成長期を迎え、 労せずにあぶら値(以下AP)の上昇に成功したのだ。「これで勝てる!」オレは確信した。
・・・しかし、王者に油断はなかった。まるで山王工業のように、まるで明和一のように。
オレ達は受験学年に再戦を約束し、再びそれぞれの修行に専念した。
まだまだ成長期なオレにとって一年はデカイ。精神と時の部屋から出てきた悟飯ばりにオレのAPは格段にアップ。王者をも唸らせた。それでも王者の優位は揺るがない。 そう、オレはまたしても敗れたのだ。三年間、オレは結局ヤツを倒すことは出来なかった。王者は偉大だった。
「貴様がナンバーワンだ、しげさん(あだ名、わりと渋いあだ名)!!」オレは思わずそう言った。言わざるを得なかった。
卒業後、オレは大学、ヤツは浪人とそれぞれの道に歩き出した。これからもずっと、ヤツはオレにとっての越えなければいけない壁である、はずだった。

別れから半年後、オレ達は高校があった街、いや、町「東松山」の牛角で再会した。
久しぶりということもあり、お互いの話をして盛り上がった。と、そんな時ヤツはいきなりこう言ったんだ。
「オレ最近あぶら出ないんだよね〜」
・・・オレは言葉を失った。信じたくなかった。だからヤツにあぶら取り紙を渡した。
ヤツの言葉は真実だった。あれほどシート全体が透けるまで放出していたあぶらの量は激減し、一枚目にして王は倒れた。
だが王の顔は以外にも明るかった。まるで新たに王になったオレを祝福するかのように・・・。
勝ちの味は、しょっぱくて青春ぽかった。その日オレは東松山で王になった。石油王に。

今、オレは一人の勇敢な戦士と戦っている。彼の名は「川上さん」。入学当初は特に注意すべきAPではなかったが、この一年で大きく成長した。
まるで昔のオレのように。一時期色々トラブッて伸び悩んだこともあったが、学年末試験が終わる頃には、その力をしっかり取り戻している。
来年は勝負の年になるだろう。だがオレは負けない。石油王の名にかけて。「しげさん」から譲り受けたこの称号を簡単に渡すわけにはいかないのだ。
でも仮に負けたとしたら・・オレもやっぱりヤツみたいにすがすがしい顔をするのかなぁ・・・。


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