亡国のイージス(05年)

監督 阪本順治
主演 真田広之、寺尾聰、中井貴一、佐藤浩市


最新鋭のイージス護衛艦「いそかぜ」が訓練中に北朝鮮のテロリストに占拠された!?
そして艦内には、史上最悪の殺人兵器も持ち込まれたらしい。幹部を残して全員が離艦する中、先任伍長・仙石恒史(真田広之)は、 自分の艦の危機に立ち上がった。
そして副長の宮津弘隆(寺尾聰)は、残りの幹部たちと共に、テロリストと手を組み、国を相手に戦いを始めた・・・。

これは今の日本を憂いた自衛官達の反逆を描いてる。

実はオレは、高校時代、防衛大を受験させられかけたことがあった。
受験を進めた(オレだけじゃなくクラス全員にだが・・)担任は、純粋に合格実績がほしかったんだろうし、あとは、防大に受かるかどうかが国立大への指標に なると考えたかららしかった。
もちろんオレは、受験日が二日もある→二日もつぶれる→めんどい。そして純粋に防大って入ったらきつそう→つか別に受かっても入らないやん→じゃあ受けんの無駄だべ。 という理由から、受験は見事に回避した。
だが、一歩間違えたら、例えば自分の家がとても苦しい状況だったら、授業料が免除の防大には惹かれただろうし、
ものすごくヒマで、二日くらいなんかやりたいなーとか考えてた時だったら、もしかしたら受験したかもしれない。
つまりなにが言いたいかというと、そんなちょっとした理由で防大を受けるヤツも中にはいて、そんなヤツが将来の自衛隊を背負う「幹部」になってしまうということだ。
オレがもしかしたら防大に入って、なかで訓練受けてるうちに思想家になっちゃって、イージス艦ぶんどるとか、決してありえない話じゃないし。
そう考えると非常に怖い。怖くなった。この話が、フィクションから一気にノンフィクションになってしまったように感じた。
副長のあとに続く若い幹部たち。彼らの、何も恐れないまっすぐできれいな目。まっすぐすぎて怖かった。
同様にして、北朝鮮の工作員達の潔さ、これも怖かった。
信じるはリーダーのホ・ヨンファ(中井貴一)のみ。作戦が失敗に終われば、死ぬだけ。もはや狂気ですよ。

一方で、政府はやはり責任を逃れることしか考えていない。
総理大臣の梶本(原田芳雄)は思わず「なんでオレのときに・・・」と漏らすほどだ。
警視庁と防衛庁も、お互いの揚げ足を取るだけ。日本のトップの悲しい実態を見せられたようだった。
そんな中で、防衛庁情報局の内事本部長・渥美(佐藤浩市)の奮闘ぶりは、唯一の希望だった。
ただ一人の理解者、内閣情報官・瀬戸(岸部一徳)との会話が印象に残った。
「日本は戦後60年間、ただ太平洋と東シナ海の間に浮かんでいただけだ。何もしようとしなかったじゃないか。」
「渥美、俺な、平和って戦争と戦争の隙間にあるものだと思っているんだ。でも、それでいいと思うんだ。」
うーん、考えさせられる・・・。

話は、ヨンファの野望を阻止しようと奮闘する仙石と内閣情報局の工作員・如月(勝地涼)、それに対する宮津達幹部、そしてヨンファ率いるテロリストが戦う「いそかぜ」、 そして渥美たちが、なんとか殺人兵器の使用を防ごうと対策を練る防衛庁のコマンドルーム。この二つの舞台を中心に進む。
原作では、この他に各キャラクターの過去など、かなり掘り下げた話も書いてあり、映画ではかなり省かれている。
まぁやっぱあのボリュームを2時間にまとめるのは相当きついんだろうなーとは思った。
それでも、2時間で上手くまとまっているように感じたし、特に分かりづらい部分は無かった。
これはオレの場合は原作を先に読んでいるからであって、おそらく何も知らない人は、結構?って思うかもしれない。
でもオレとしては、この作品に関しては先に映画を観たほうがいいように思う。
その上で、必ず原作を読んでほしい。そうすれば、「あぁ、そうだったんだ。」って思うだろう。
普通は原作→映画の順がいいようだけど、これに関しては逆で。絶対間違いないって。
原作は、あのボリュームの作品では、浅田次郎氏の『蒼穹の昴』以来の素晴らしさ。長いけど読んでみてほしいです。

それにしても、本当に登場人物が豪華。主演の4人はもう言うことなし。
真田広之は、少し肉付きがよくなり、先任伍長としての風格が抜群に出ている。迫力も抜群。
寺尾聰は、優しい雰囲気から一転、冷徹な副長を演じきった。だが、時折見せる優しい表情は秀逸。
佐藤浩市も、相変わらず重厚な演技力。
そして一番素晴らしかったのはテロリスト、ホ・ヨンファ役を演じた中井貴一。
DCカードとか言ってる場合じゃないくらい冷たく、悲しい男の役をここまで完璧にこなした演技力はヤバイ。
見ていて本当に鳥肌が立った・・・。セリフ一つ一つも重く、パワーが違う。
なんでこの4人が集まったのか、ホントにすげーと思う。奇跡でしょ。日本最高の役者ばっかじゃん。

脇役も抜かりなく、全てで完璧な配役。
とにかく後から後から、出てくる役者に驚かされるばかり。
先に挙げた原田芳雄、岸部一徳はもちろん、平泉成など、政府の重鎮はそうそうたるメンツ。
「いそかぜ」に搭乗する幹部たちは、吉田栄作に谷原章介、豊原功輔。
北朝鮮工作員役で、なんと安藤政信!!!!まさかここで出てくるとは思わなかった!
空自隊員で真木蔵人とかも焦らせてもらいました。あとは松岡俊介、池内万作といった阪本作品の常連なんかも顔をのぞかせ、 かなり充実していましたね。
それでいて、みんなそれぞれのキャラを殺していない。これだけ濃ゆいメンツが集まっても、これだけナチュラルなのはホントすごいわ・・。
これも監督の力なのでしょうかね。

おそらくこの映画を観ても、危機感なんか生まれないでしょう。オレもそうです。
でも、ちょっとしたことで、こんなことになってしまうんだってことを、心に刻んでおくのも、いいのではないでしょうか。
まぁ、純粋にこれを娯楽として観るのが、一番いいとは思いますけどね。
いや〜、映画館で観れてよかった・・・。


「よく見ろ、日本人。これが戦争だ。」


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